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同じ星空を見た夜/3月11日の震災で傷付いた心を田中うささんが慰める

記者:淩美雪 / 台北報道

「3月11日、雪が降っていました。
夜中になって雪が止み、雲が去った後の空には、今まで見たことがないくらいのたくさんの星がひしめいたいたそうです。
津波にのまれ、余震に怯える地上から上空へ、たくさんの命が吸い込まれて昇っていきました。
あの夜、空を仰いだ瞳たちにも、同じ星が映っていました。」

日本の絵本作家 田中うささんは、3月11日の震災後、宮城県沿岸部の震災地域でのボランティア経験を経て感じたことを
<同じ星空を見た夜>という絵画にしました。

そして、岩手県の被災者の方からお話を伺い、<カレンちゃん、ショコラちゃん、他、たくさんの家族たち>という絵を描きました。
「ライオンラビット2羽、インコ3羽、文鳥9羽、金魚2匹、コッピー1匹、合計17匹の家族たちを震災で亡くしました。
写真はまったく残っていません。」と被災者の方は語られます。

田中うささんが描いた動物たちのご家族からの手紙の中の、
「救うことが出来なくて、本当にごめんなさい…ごめんなさい。」という言葉に、心が痛みます。
生き残った人たちが、あの星空を眺めて、そこに希望を見い出すことができるようになるまで、
いったいどれだけの時間が必要になるのでしょうか…。

田中うささんは被災地を訪れ、被災者の方たちからペットの話を伺い、その数々の思い出を、絵画の中に記録することを決めました。
それと同時に、画家や絵本作家たちに呼びかけ、震災によって失われてしまった小さな命たちのそれぞれの物語を描くことで、
飼い主さんの悲しみを慰め、小さな命たちを記憶に留めてもらおうと、活動を続けてきました。
 
「震災で消えた小さな命展」には、日本の作家や画家の他にも、オランダ、イタリア、そして台湾からも多くの画家たちが参加しました。
計58名の作家たちは、飼い主さんたちから話を伺い、大切な小さな家族たちを絵の中に蘇らせました。

ある被災者の方が、飼っていた亀のだいちゃんを描いてもらうために下さったお手紙での話です。
「震災の日、だいちゃんを洗濯カゴに入れ、車で高台に避難しましたが、最初の津波に遭い、家も車も家族も、そしてこの小さな命をも、
さらわれてしまいました。 写真も残っていませんが、描いていただけるのなら、よろしくお願いします。」

一枚一枚の絵には、ペットたちの生命と、残されたご家族の方たちの悲しみと涙が、記録されています。
絵は、今年の3月から日本を各地を巡回し、全ての展覧会が終わった後に、絵の申し込みをされた被災者の方に贈られます。
台湾では、台湾花栗鼠絵本館と台北北区杜輪社が展覧会を主催し、誠品敦南店地下2階で、5月18日~5月27日まで展示します。
5月18日の展覧会初日には、田中うささんなど5名の日本の作家たちが自らの体験を語ります。